『ひとりガサゴソ飲む夜は……』(椎名誠):酒とツマミの痛快列伝
酒好きの作家は数あれど、世界中を飛び回って現地の酒とツマミを味わう作家は椎名誠くらいなものでしょう。東南アジア・ヨーロッパは当たり前。オーストラリアの砂漠や禁酒を習慣とするインドでも、酒とツマミを求めて味わうバイタリティには思わず感嘆してしまいます。さらに自らのお酒の失敗談まで開けっぴろげに語るのですから、面白くないわけがありません。
そして、椎名誠のエッセイの魅力である、遠慮を一切しない物言いも健在。本書でも歯に絹着せぬスタイルは変わらず、もったいぶって料理や酒を運んで全てを台無しにする勘違い料亭、ピリピリした雰囲気の寿司屋とそこにありがたがって通う客をバカと断じ、蕎麦に蘊蓄を語る店や客も容赦なく否定します。椎名誠にとって、客のことを考えない店やサービスは全て勘違いであり、そんなサービスを堂々と提供する店はバカなのです。この意見には多くの人が頷くのではないでしょうか?痛快な酒とツマミの体験と社会への風刺を込めた『ひとりガサゴソ飲む夜は……』、おすすめです。