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トーマの心臓(萩尾望都)最終回感想&あらすじネタバレ注意!少年が最期に踏みしめた、春先の雪のような世界に…。 #懐かしの漫画


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『人は二度死ぬという。』 萩尾望都さんの「トーマの心臓」

紫綬褒章を授章した漫画家、萩尾望都さんの代表作のひとつです。

昔から気にはなっていたのですが、社会人になり初めて最終回まで読みました。(といっても、コミックス版でも全三巻なのですが。)

いわゆる少年同志の関係を描いた少女漫画といえば、竹宮恵子さんの「風と木の詩」が一番有名だと思います。

こちらは私も一巻だけ読んだことがあったので、ドイツのギムナジウム(全寮制男子校)を物語の舞台とする「トーマの心臓」もまた、同じような作品なのかなと思っていました。

しかし、セリフの一言から登場人物の描写、髪の毛一本の表情まで、竹宮さんのそれとは全く異なる世界観を持つ作品でした。

ご存知の方も多いかと思いますが…物語の冒頭は、「お嬢さん」という愛称を持つ、ひとりの小さな金髪の少年のシーンから始まります。

たったひとりで冷たく寒い鉄橋に向かう、その少年の靴が踏みしめる春先の雪は、繊細な音をたてながら淡く儚く溶けてゆきます。

少年が自分宛に書き遺した「最期の手紙」の言葉を、頑なに、冷酷に、異常なほどに拒絶する黒髪の優等生、ユリスモール・バイハン。

“お嬢さん”と呼ばれ愛された、金髪と青い眼の無邪気な少年。
南欧の血を引き、当時のドイツにおいては奇異の目にも晒された、漆黒の髪を持つ優等生。

この作品のテーマは、「少年愛」でも「ボーイズラブ」でもありません。

この作品の中では、鍵となる主要人物は勿論、脇役も皆すべて魅力的に描かれています。

それから…これは私の個人の趣味の問題かもしれませんが、萩尾望都さんが描き出すセリフの繊細さがとても好きなんですよね。

例えば、(きみはこれからどこへ行くの?)という内容のセリフであれば、『じゃ きみは … 』。

すう…っ と消えてしまう言葉に、クリアな釣り糸の束でたぐり寄せられるような、吸い込まれてしまうような感覚になります。

ラストシーンは、実際にその眼で確かめて欲しい、としか言いようがないですよね。

なぜタイトルが「トーマの心臓」なのか、なぜ名作とされているのか。

この作品は最初から最後まで、冒頭の少年が最期に踏みしめた、春先の雪のような世界に包まれています。

春の朝露が、なぜあれほどに透明で美しいのか。

その理由の「すべて」が理解できる、素晴らしい作品だと思います。