ナカノ実験室

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感想・書評『国境の南、太陽の西』 村上春樹 いつまでも少年時代のときめきが胸にあることのすばらしさ・ネタバレ注意(レビュー)。 #読書


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 この作品は、一人の人間の人生を生まれた頃から学校を卒業し、結婚して家庭を持って暮らすあたりまでを丁寧に描いたものになっています。
 主人公のハジメは、小学生の頃に島本さんという足の不自由な、それでいて完璧な美しさを持った少女と仲良くなります。その頃の男女の間にある関係は微妙なものであり、中々筆舌に尽くしがたいものがありますが、村上春樹はさすがと言った感じで、巧みな比喩を多用し、その微妙な感じが良く描かれているのが読んでいて自分の小学生の頃を思い出すようです。ハジメは引っ越したせいで島本さんとは一度離れ離れとなり、引っ越し先で中学・高校に通う中でほかのガールフレンドが出来ますが、そこには確かに好きという感情があるものの、島本さんとの間に感じた心を震わせるような、思わず相手に引き付けられてしまうような強烈な吸引力はなく、やはり島本さんの面影をどこかで追いかけています。大学生になって学生運動に巻き込まれながらも、自分でジャズバーを経営するようになっても、ハジメの心の片隅には、島本さんのためのスペースがちゃんと用意されている。それはとても素敵なことであり、実際、多くの人にもそのささやかなスペースは残っているのではないかと思います。
 この小説は、ハジメの成長とともに、“彼が一人の女性を想い続ける小説”と言い切ってよいと思います。ハジメにとっては島本さんですが、おそらく誰にとっても、まだ幼いころに感じた心のときめきというものがあるはずで、この小説は、読み返すたびにその頃の心の震えを思い出させてくれます。