由緒ある和風旅館に江戸の面影残る湯治場、明治の男爵の旧別邸。泊まれる名建築30件を、写真とエッセイで紹介しているこの本。どこまでも続いていきそうな急階段、複雑に組み上がった吹き抜け、今にも廊下が軋む音が聞こえてきそうな写真の数々。
写真を眺めているだけでも十分楽しめます。豪華な透かし彫りの格天井、緻密に彫られた欄間、金色に輝く大襖に、建築家の「美」への執着が感じられます。街中の比較的新しいホテルにはない、その建物に確かに息づく独自の歴史と伝統美。ただただ圧倒されるばかりです。中には元遊郭だった旅館も。遊郭という狭い世界の中で生きた、遊女たちの足音や息遣いが聞こえてきそうです。
それぞれの建物について書かれたエッセイも魅力的。出された料理や女将さんとの会話、そこで起きた出来事など細かに描写されています。まるで、自分がそこに泊まっているかのような気分になるほどに。
日本の伝統美の神髄、ここにあり。読めば宿屋の見方が180度変わります。