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感想・書評/生きてるだけで、愛(本谷有希子)躁鬱もちの寧子、バイト先の色恋沙汰に…ネタバレ注意。


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※こちらの記事は、在宅ワークで寄稿を募集した小説感想記事です。

『生きてるだけで、愛』本谷有希子

 主人公は25歳で躁鬱もちの寧子。バイト先の色恋沙汰に巻き込まれて鬱に突入し、過眠と情緒不安定で同棲している恋人の津奈木に八つ当たりばかり。そんな中、津奈木の元彼女が現れて、寧子を自立させようとする・・・というあらすじの、基本的には恋愛の物語です。

 生きている手応え、人と繋がる手応え、というものが作品の大きなテーマなのかなと思いました。手応えのない空虚さをある程度押し殺して日々の生活を送っている現代人は多いかもしれません。主人公の寧子はとてもエキセントリックな人物である上に躁鬱をもっており、それが故にうまく生きられず、社会と繋がれず、人一倍大きな空虚さにいつも直面します。しかし寧子のすごいところは、膨大なエネルギーを動員して泣いて、叫んで、暴れて、走って、その空虚さに真正面から挑むところで、その姿が彼女の魅力でありこの作品の実に面白い点です。そして、その結果どんなふうにどのような手応えをつかむのか、この作品の見どころです。

 寧子だけではなく、恋人の津奈木も、その元彼女も“変人”です。本谷さんの小説や戯曲には、本作品に限らず、“変人”がたくさん出てきます。そして、彼らが作品の中でとても安心して最大限に“変人”ぶりを発揮して、その姿に読んでいる者が尊敬の念さえ抱いてしまうのは、本谷さんがそれぞれの人物を本当に誠実に愛しているからだろうなといつも感じます。メンヘル、躁鬱など、過激で暗い側面もありながら、読むと心が暖まるのは、作者の愛が注がれているからだと思います。