寄稿を頂きました。
真月譚 月姫
宿敵である吸血鬼ロアを打倒した遠野志貴とアルクェイド・ブリュンスタット。元通りの生活へと戻っていくが、志貴の心のわだかまりは残ったままだった。最後の戦いを終えてから、アルクェイドと再会していなかったからだ。どこかへと消えた彼女を探す為に、共に歩いた夜の街を歩く志貴の姿は、哀愁を感じさせる。
何時か約束した通り、放課後の教室で一人待つ。日が落ちるまでの短い夕暮れ時、彼の求めていた姫は現れる。
ロアを倒しても、自分の吸血衝動を抑えられない彼女は、眠りにつくと言う。そんな彼女に、志貴は事無げもなく自分の血を吸う。吸われてしまえば最後、自分が人外になると言うのに、ロアと言う存在を見た後でも、志貴はアルクェイドを救い共に生きる為は、そんな事は構わないと断ずる。
しかし、そんな彼の提案も、アルクェイドは拒否してしまう。何故か、と問う志貴に、志貴が大好きだった笑顔で答える。「好きだから吸わない」と。
殺してまでも止めたい。そう思いながら志貴はアルクェイドが去るのを止められなかった。空に浮かぶ月を眺めながら、自分も楽しかったと呟く。
愛する故の自己犠牲を描きながら、そのどちらも救われたとは言い難い終わりは、美しくはあるが寂しさに溢れている。しかしそれでこそ、彼らが再会した時の喜びを際限なく想う事が出来る。それはまるで、if(もしも)が好きな彼女の様に。