『明暗』夏目漱石:未完に終わってしまったのが何とも惜しい大作です。
今年(2017年)が夏目漱石生誕150年にあたることもあって、書店で漱石特集のコーナーを見かけ、つい買ってしまいました。夏目漱石の小説のうち、『三四郎』とか『道草』などもなんとも面白いんですが、この『明暗』はとにかく登場人物の心理描写がすごく仔細に書かれていて、現代的な感じを受けました。
新婚生活を送る津田とお延夫婦の揺れ動く心の駆け引きが最大の見どころです。そして、津田の過去がふたりに迫ってくるところに思わず鼓動が早くなってしまいます。『明暗』を読んでいて、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』をどこか連想させられました。『カラマーゾフの兄弟』も深い心理描写があり、人間の様々な側面を映し出している小説ですが、それと通ずるところがあります。そういう人間の深層をじっと見つめる漱石の洞察力は怖いくらい鋭くて、もし実際にこんなふうに感情を見透かされる立場になったら嫌かもしれません(笑)。未完のまま作者が亡くなってしまったのでどうすることもできませんが、それにしても津田とお延の結末が気が気でならないですね…。